大判例

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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)2711号 判決

一、当裁判所は原審と同様に被控訴人製品が本件考案の技術的範囲に属さないものと考える。その理由は次のとおり附加するほか原判決の理由と同一であるからこれを引用する。

二、控訴人は多段的係合突起が磁石と一体的に設けられることの意義について、突起が磁石と一体ではないが一体と同視されるような仕方で設けられる場合を含み、それは磁石と係合突起とが常時相互関係位置不変に保持される構造を意味すると主張する。しかしながら、甲第一号証の本件考案の詳細な説明および図面を検討しても、そのように解すべき説明はついに見出すことができない。

本件実用新案登録請求の範囲の記載によつても、係合突起は永久磁石に一体的に設けるのではなくて永久磁石の頂面に一体的に設けることとされているのであるから、係合突起は永久磁石に接着して設けられなければならないのであつて、永久磁石と離れて設けることは考慮されていないといわなければなるまい。

控訴人は係合突起と磁石との関係について本件考案の詳細な説明らんに係合突起は磁石の表面を一部膨起せしめるか又はこれに鉄片を埋着して構成する旨の記載があるがこれは実施例の説明であると主張する。しかしながら、係合突起を磁石の頂面に一体的に設けることの意義については、この記載が唯一の説明であつて、ほかにどのような実施の方法があるのか詳細な説明らんからはうかがい知ることができない。

してみれば、前記の記載をもつて単なる実施例の説明に過ぎないとみることはできない。

三、以上の理由により、被控訴人製品が本件考案の技術的範囲に属することを前提とする控訴人の本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく失当であり、これと同趣旨の原判決は相当であるから本件控訴を棄却する。

〔編註〕本件における当事者の主張は左のとおりである。

当事者の求める裁判

控訴人は、「被控訴人は、別紙目録記載の鞄、ランドセル等における鞄の係止装置を製造し、販売してはならない。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、「本件控訴を棄却する。」との判決を求めた。

当事者の主張および証拠

当事者の主張および証拠は、次のとおり補充するほか、原判決の事実摘示欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

一、控訴人の主張

(一) 原判決が、本件考案における多段的係合突起は、「永久磁石の表面を一部膨起させて構成した突起」(この場合突起は当然に磁力を有する)、もしくは、「構造的にも磁力を有する点においても永久磁石と一体と同視されるような仕方で永久磁石と結合された磁性材によつて構成された突起」を意味すると限定し、全く磁力を有しない突起をも含むとする控訴人の主張を斥けたことは、甲第一号証の本件実用新案公報の「登録請求の範囲」、「考案の詳細な説明」並びに「図面の簡単な説明」の解釈を誤つたことに基く事実誤認である。以下これを詳述する。

(二) 基本的には、「登録実用新案の技術的範囲は、願書に添附した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に基いて定めねばならない」ところ、甲第一号証の実用新案公報の登録請求の範囲には、本件考案における多段的係合突起は「永久磁石と一体的に設けられる」とのみ記載されている。そして

(1) 突起が永久磁石の表面を一部膨起せしめるか、または永久磁石に鉄片を埋着して構成される場合、すなわち、突起が磁石と一体を成す場合に突起が磁力を有することは当然である。

(2) 突起が磁石と一体ではないが、一体と同視されるような仕方で設けられる場合は、どうであろうか。控訴人は、右の場合を原審で「磁石と係合突起とが常時相互関係位置不変に保持される構造」であると説明してきた(なお、「磁石と係合突起とが常時相互関係位置不変に保持される構造」の用語は、甲第三号証の判定書の「判定の理由」中にも見受けられるものである)。構造上磁石と常時相互関係位置不変に保持される突起には、それが磁性材であるため永久磁石の磁力が作用して磁力を帯びるものと、非磁性材であるため磁力を帯びないものがある。控訴人の主張するところは、「構造上突起が永久磁石と一体と同視されるような仕方で設けられる場合、それが磁力を帯びないこともあり、本件考案はかかる構造をも含む」というにある。このことは、本件考案の実施品である検甲第一号証によつて明らかである。

(三) 控訴人は、甲第一号証の実用新案公報の考案の詳細な説明の記載並びに添附の図面は、本件考案の実施例を示したにとどまることについて注意を喚起したい。公報には、「係合突起2……は磁石1の表面を一部膨起せしめるか又はこれに鉄片を埋着して構成」するのは、「通常」の実施例であることを考案の詳細な説明に明記し、また添附の図面は「通常の実施例」を図示するものであることを図面の簡単な説明の冒頭に注記しているのである。

二、被控訴人の主張

(一) 本件考案の構成中、「磁石1の頂面に多段的係合突起2……を一体的に設け」との記載、さらに本件考案の詳細な説明中、「通常係合突起2……は磁石1の表面を一部膨起せしめるか又はこれに鉄片を埋着して構成」するとの記載および公報添附図面第三図の表示と併せて、磁石の表面は、外的刺戟に耐え、損傷の危惧を低減せしめるに足る堅固なカバーで被覆されていること、カバーは磁性材であることを要件としていないこと、したがつて、鉄片と接し、これに有効な磁気的吸着作用を及ぼすのは、カバーから上方に貫出している多段的係合突起でなければならないことを考え合わせると、本件考案における多段的係合突起は、永久磁石の一部を膨起させて構成した突起、もしくは、構造的にも磁力を有する点においても永久磁石と一体と同視されるような仕方で永久磁石と結合された磁性材によつて構成された突起を意味するものと解さなければならない。

(二) 控訴人が被控訴人の製品について、本件考案の多段的係合突起に該当するものとして主張する回転軸は、磁石の頂面に一体的に設けられておらず、また鉄片を吸着する磁力を有せず、多段的構成もとつていないことは、検乙第一号証により明白であつて、多く説明を要しない。したがつて、その余の要件について検討するまでもなく、本件考案の技術的範囲に属しないものである。

(三) 本件考案の多段的係合突起は、引掛部をもつ鉄片に対する磁気的吸着と機械的係合の機能を併有するものであるから、鉄片を係合突起に接合する単一操作により、磁気的吸着と機械的係合が完了するのであるが、被控訴人の製品においては、吸着片(磁極片)が掛止板(鉄片)を吸着し、非導磁性回動自在の係止部体(回転軸)が鉄片の通孔と係合することに見られるように、別個の部材がそれぞれに機能し、のみならず、機械的係合は、掛止板(鉄片)の通孔を係止部体(回転軸)に合わせ、かつ、吸着片(磁極片)に接合させるという第一次操作のみでは足らず、係止部体の摘部をその通孔に直交する位置まで回動する第二次操作によつて完了するのである。開被操作においても逆の手順で行われることになる。また、本件考案の係合手段が蓋の開被方向の牽引力に対してのみ抗力を有する点に比して、被控訴人の製品のそれは、あらゆる方向の牽引力に抗しうるという異つた効果がある。

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